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『春琴物語』と『山を飛ぶ花笠』
投稿者:
井川耕一郎
投稿日:2008年11月11日(火)21時10分26秒
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渡辺護監督の伊藤大輔に関するインタビューをブログに載せたついでに、
今、フィルムセンターで上映している伊藤大輔作品についての感想をちょっとだけ書いてみようかな、と。
伊藤大輔は身体の障害に独特のこだわりをもっていた監督ですが、
特に盲目に対するこだわりは強いものでした。
『王将』の原作戯曲では、目の手術をしたということが台詞でほんのちょっと語られているだけなのに、
映画の前半では、阪妻演じる坂田三吉は、失明する危険があるにもかかわらず、将棋にのめりこむ男として描かれている。
また、『鞍馬天狗』では、杉作の姉・お力(琴糸路)は緑内障で目がほとんど見えないという設定になっていた。
けれども、彼女は木の札に爪で刻まれた文字(木目などがジャマして目が見える者には逆に読みとれない)を指先で読み取ってアラカン演じる鞍馬天狗を助け、
針で紙にいくつもの穴をあけて鞍馬天狗宛の遺書というか恋文を書くのですね。
灯りにその手紙がかざされると、針穴から光があふれ、文字が浮かびあがるのですが、
この瞬間は何度見ても素晴らしい。
針穴の手紙がまるで映画のフィルムの原型のように見えてしまう。
ところで、今週は「伊藤大輔と盲目」という観点から見て、興味深い作品が二本上映されます。
一つは『春琴物語』(14日(金)19時から上映)。
谷崎潤一郎の『春琴抄』の映画化だから、当然、盲目の話なのですが、
以前、ビデオで見たときには、佐助が自分の目をつぶすシーンが強く印象に残りました。
針で自分の目を突こうとしてなかなか突けないという芝居が延々と続き、一体これがいつまで続くのだろうと思っていたら、
唐突に思いもよらない形で目をつぶしてしまうのですね。
これには思わず、うーん……とうなってしまった。
スクリーンできちんと見直したいと思いました。
もう一本は『山を飛ぶ花笠』(12日(水)16時から上映)。
医者の娘・お俊(花柳小菊)は宗院(月形龍之介)という許婚がいるにもかかわらず、女形の竹之助(尾上梅幸)と恋に落ち、駆け落ちしてしまう。
地方の舞台をまわるうち、竹之助の芸は次第に認められるようになるのですが、
同じ頃から目も見えなくなりだすのですね。
竹之助はそれを宗院を裏切った罰だと考える。
しかし、目が見えなくなっても、竹之助は舞台に上がり続ける。芸にも磨きがかかってくる。
『山を飛ぶ花笠』が本当に面白くなるのは、このあたりからですね。
突然、吹きこんできた風で、舞台の灯りが全部消えてしまい、客が動揺する場面がある。
すると、ひとびとの動揺を鎮めるように竹之助が胡弓を弾く。
やがて、裏方たちがロウソクを持ってきて、芝居小屋の中はもとの明るさに戻るのですが、
気がつくと、客席の最前列に月形龍之介演じる宗院がいる。
宗院はじいっと竹之助の見えない目を見つめている。
その後、宗院はお俊を呼び出して言うのですね。「私には竹之助の目を治すことができる」と。
お前が私のもとに戻ってくるのなら、治してやろう、というようなこともにおわせる。
お俊はその申し出を断ろうとするのですが、
相手が宗院であると知らない竹之助は目の治療をお願いしてしまう。
それから数日後の夜。
宗院は竹之助の目をおおっていた包帯を取ると、
いきなり光を見るのはよくないから、行灯を背にして部屋の隅を向き、ゆっくり目を開けるように、と命じる。
竹之助は言われたとおりにするのですが、
思わず、ああっ、見えない……と口走ってしまう。
けれども、宗院はあわてず、
上を向いて天窓から入ってくる月の光を見なさい、と告げる。
またしても言われたとおりにする竹之助。
すると、今度は「ああ、見える……先生、見えます……!」
この場面でうなってしまうのは、目が見えるようになった瞬間の竹之助の顔を伊藤大輔が撮っていないことですね。
竹之助を演じる尾上梅幸は、ずっとカメラに背を向けたまま芝居をしている。
だから、目が見えるようになった喜びを描きながらも、
この場面には、目が見えない状態にもうちょっとだけとどまっていたいとでもいうような奇妙な雰囲気が、うっすらとただよっている。
実際、このあと、お俊は簪を手にすると、それで竹之助の目を突いて失明させようとする。
竹之助と一緒にいるためには、こうするしかないのだ、と言って。
このあたりのドラマの盛り上げ方もなかなか面白い。
『山を飛ぶ花笠』は、伊藤大輔にしてみれば、会社の注文をこなしただけの小品にすぎないのかもしれませんが、
それでもやっぱり伊藤大輔らしさが感じられる作品になっている。
伊藤大輔は本当に盲目にとり憑かれ続けた監督だったのだな、とあらためて思った次第です。
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