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高校野球は楽しくやろう 

 投稿者:松本稔さん  投稿日:2008年11月30日(日)22時02分58秒
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  朝日新聞1987年9月27日 群馬県立中央高校野球部監督・松本稔さん「わたしの言い分」より転載

 高校野球は楽しくやろう
 疑問ある「教育強調」 好選手集めは断った

 高校野球はその真剣なプレーが人気を呼び、盛んになる一方だが、同時に一部校の加熱ぶりが非難の的にもなっている。松本氏は現場にあってそんな高校野球をさめた目で見、指導している一人だろう。ともすれば、精神的、修養的になりがちな高校野球を自ら学んだ体育理論の裏づけにより、スポーツとしてとらえようとしているが、“言い分”は高校野球の原点にふれている。松本氏が少数派といわれるなら、高校野球はそれだけゆがみかけているといわねばならない。


 高校野球はスポーツ、遊びだ、といつもおっしゃっているようですね。

「私は教員になってまだ二年少ししか経験がなく、教育とか人間形成を前面に出してやるだけの自信がないこともあります。しかし、そういうことを考えすぎると、野球、スポーツをやる本来の楽しさがなくなってしまうのではないか、という気が強くするのです。チームを強くしたい、上手になってもらいたいと互いに頑張る、その過程で教育的な何かが出てくるのかな、とは最近、思い始めてはいます。けれど、スポーツはそれをやること自体がやはり目的だと思うのです」
「私が大学院で教わった先生は、スポーツ、体育を人間形成の面で肯定的にとらえていなかった。スポーツをすると、忍耐力がつく、協調性ができるなどの固定観念があるが、必ずしもそうとはいえないと・・・。高校野球でも、選手はグラウンドでこそ指導者に対し礼儀正しいけれど、グラウンドを離れると、どういう行動、態度をとるのか。すべての面でいい形をしているかどうか、わからない」

 甲子園に出てくるようなチームはたいてい、猛練習に明け暮れているのに、中央高校は一日三時間、週一日は休みだとか。

「うちの生徒はほとんど進学希望です。私としてはまず、生徒を相手にしているわけで、野球部員も希望通りの進路にもっていかねばなりません。だから、そういう練習しかできないのです。それと、私の頭に一つひっかかっていることがあります。去年、卒業した生徒が先輩から聞いた話を作文に書いたのですが、三年間高校野球をやって何が残ったか、と先輩に尋ねたら、“バカ”だけが自分の中に残ったと言われたというんです。こういう気持ちで卒業されるのは、教師として寂しいことです」
「チーム事情もあります。部員は六十五人(三年生を含む)と多いのですが、下手な子の集まりで、無理な練習をさせてレギュラーにけが人や故障者が出ると、穴を埋めることができない」
「スポーツで最も大切なのはリズムだと思うのですが、それを突き詰めて考えると緊張と弛緩(しかん)。一日の練習の中でも、ヤマがあり、ヤマを作るために少し緩めてやらなければならない。それを一週間、一ヵ月、一年で考えても同じだと思うのです。緩める所を作ってやらないと、ここぞという時に力が出ません。いわゆる千本ノックなどは、疲れてやりたくないと思っているのを我慢させてやらせるだけのことだと思う。野球というのは0・何秒の瞬間的な勝負です。試合と同じ状況でノックをするならいいが、体が疲れ切っている時、無意識によい動作やフォームができるという考え方は、私には信じられません。投手が長い距離を毎日走るのも、瞬発力を奪っていくものだと思っています」

 夏の甲子園大会では終盤戦になると、気持ちが悪いぐらい強いチームがありますね。上手すぎる選手ばかりで、もうほとんどプロではないかと・・・。

「高校野球で、うまい子だけを集めて勝つのはそれほど難しいことではないでしょうが、私にはそういう形で勝つことに抵抗があります。私がここ(中央高)に赴任して早々、OBたちが、中学生のいい選手に声をかけようかと言ってくれたのですが、お断りしました。幸運にも赴任三年目で甲子園へ行けたのですが、正直言って二十年ぐらいかかると思っていました。たまたま、ある年にいい選手が何人か自然に集まって来て、それで運が良かったら、ひょっとしたら出られるかもしれないな、ぐらいの気持ちでした。甲子園って普通の高校がそんなに簡単に行けるところではありません」

 と、今年の夏、PL学園と当たって猛烈な闘志が・・・。

「PLはず抜けすぎていてちよっと・・・。群馬県でも最近、私立校がいくつもあって、野球に力を入れ選手も集めています。そういう学校と試合をする時は負けて当然と思う半面、(平均的な高校の)われわれが勝ってこそ価値があるのだと、そんな気持ちもわいてきます」

 高校野球は、高校生として与えられる範囲の環境の中でやるべきだと思いますが、いわゆる野球学校では練習量のほか施設も充実していますね。

「与えられる状況なら与えてもという気もしますが、あまり度を越えたものにはやはり疑問を持ちますね。最近はウエートトレーニングの器具も普及していて、いいものを買えば三百万円も五百万円もする。それをきちんと使いこなせればいいが、そうでないなら意味がないでしょう。今回、甲子園に出て寄付金が集まり余ったので、買おうと思えば買えなくもなかったのですが、使いこなすのは無理だと思ってやめました。今、うちにあるのは鉄アレイとバーベルだけです」

 部活動として生徒に自主性を持たせるため、父母会の手伝いもできるだけ遠慮してもらっていると聞きました。

「子どもの遊びに親が手を貸すのはもともと好きではありません。ここ(群馬)は交通の便がよくないので、試合の時、父母が車を持ち寄って送り迎えをしてくれていた。中心は三年生の約二十人の父母ですが、二十人もいると試合に出られない子もかなりいます。そんな子の親が送って来て試合が終わるまで待っている。一日つぶれてしまいます。そういう姿をみているのがいやでした。生徒ももちろんいやだろうし、父母も納得いかないでしょう。だから、今は現地集合です。近い所なら自転車で来ますが、中にはまだ親に車に乗せられてくる子がいて(苦笑)。がっかりします。昨年の夏は合宿をしたのですが、父母会が炊事をするというのを断り、マネジャーにやらせました」

 今年の夏の甲子園大会中に、佐賀工の監督が宿舎で選手を殴り、それが明るみに出ました。

「殴りたいと思ったことはないが、佐賀工の監督さんの気持ちはわからなくはありません。うちの生徒も大会中、消灯時刻が過ぎているのにガヤガヤやっていた。どなりたいところだったけど、私は陰険なもので、これからは消灯時刻は決めないから自分たちで好きな時間に寝てくれ、と嫌みを言って・・・。それから早く寝るようになりました」
「不祥事を起こすと試合ができなくなるなど、規則をあまり厳しくすると、監督も選手も窮屈になり堅苦しい野球にならざるを得ないでしょう。私の先輩で実業高の監督をしている方がいます。練習をたまには休みたいのだが、休ませると生徒が何をしでかすかわからないのでと一年中、野球をやらせています。うちには幸い、そういう心配はあまりありませんが、問題のある生徒を野球部に入れて更生させるというドラマみたいな話は、私には自信がありませんね」
(聞き手・土原 剛編集委員)

 群馬県立中央高校野球部監督・松本稔さん
 1960年、群馬県伊勢崎市生まれ。前橋高三年生の78年、投手として春の選抜大会に出場し、比叡山戦で完全試合を記録。筑波大体育学群卒、同大学院でスポーツ心理学を専攻、85年、群馬県立中央高の教諭に就任、同校を今夏の甲子園大会に出場させた。
 
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