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常葉学園菊川高等学校・佐野 心 監督
2008年の第90回全国高校野球選手権大会で見事準優勝を飾った常葉菊川。驚異的ともいえる集中打と確かな守備、そして投手力で決勝まで勝ち進んだ。チームを率いたのは佐野心監督。同年5月に監督に就任し、わずか3か月で全国最高峰の舞台までチームを導いた。
元プロ野球選手という異色の肩書きを持ち、今や全国屈指の強豪校となった常葉菊川を率いた佐野監督。その強さの秘密、指導法、采配について聞いてみた。
佐野心監督 監督に就任した時は、「貧乏くじを引いてしまったのかな」という思いも、正直少しはありました。チームは3季連続で甲子園に出場していましたし、もしも私が監督になった途端に甲子園に出られないようなことがあれば、「やっぱり佐野じゃ駄目だ」と言われてしまう。選抜で優勝候補に挙げられながら、いい結果を出せなかったことも、逆に夏への期待を高めてしまっていましたから。そういう意味では、プレッシャーも感じていました。
突然の就任劇には、やはり佐野監督自身も戸惑いやプレッシャーがあったようだ。しかし、それでも甲子園出場、さらには準優勝という結果を得られた。
佐野 何も変えなかったことが逆に良かったのだと思います。私自身、それまでも部長として選手を指導してきましたし、地力はある子達ですから、当たり前のことを当たり前にやるだけで、結果はついてきます。「佐野」の色を出す必要はなくて、常葉菊川が今までやってきた野球をやるだけ。それが夏の結果につながったと思っています。それと、あえて4季連続を目指さなかったことも逆にいい結果が出た理由でした。開き直りとは少し違いますが、とにかく自分も選手も「全力を出す」ことだけを考えて戦いました。
常葉菊川といえば、ここ数年特に言われている「バントをしない」など思い切りのいい打撃が代名詞。特に今年は、1イニングでの集中打に目を見張るものがあった。
佐野 バントのサインを出さないのは、とにかく選手たちに後悔だけはさせたくないから。フルスイングして三振してしまった場合と、送りバントを失敗してしまった場合では、同じひとつのアウトでも選手の感じ方が違います。好きでバントをする子なんていないでしょう。それなら、とにかくどんな場面でも自分のできるベストのプレーをさせてあげたい。それが選手たちの才能を解放させてあげることにもつながります。今、高校野球界はまるでプロのような、「勝つための野球」が主流になってきています。チームのため、勝利のために自分が犠牲になることは当たり前。でも、高校野球の本来の姿はそうではないと思うんです。プロは「勝つこと」が仕事です。チームが勝ち、それに貢献することでお金をもらえる。多くのファンを球場に呼ぶことが収入につながります。でも高校野球は違う。お金のためでも観客のためでもなく、自分のためにする野球です。だからチームのために自分を犠牲にする必要なんてない。バントが決して悪いと思いません。実際に今年の夏も全くバントを使わなかったわけではない。でも、フルスイングできる場面なら、選手に「思い切り打って来い」と声をかけて送り出すことを大切にしています。
勝つための野球ではなく、あくまで「全力を出し切る」野球。そこに常葉菊川の強さの秘密がある。
佐野 夏の集中打の理由もそこにあると思います。まず、バントをしないからアウトカウントも増えない。つねにフルスイングをするから相手投手も警戒して四球が増える。ランナーがたまれば1本のヒットで大量得点も狙える。それが上手くかみ合って、今年夏のようなビッグイニングが生まれるんです。普通の高校は、県予選なら甲子園に出場するため、甲子園なら優勝を目指してプレーする。しかし、常葉菊川は違う。勝ち負けではなく、とにかく自分の持てる力をすべて出し切る。その一点だけを考えてやっています。これは意外と難しいことです。勝ち進んでいけばどうしても欲は出るし、「勝ちたい」気持ちも強くなってくる。でも、私も含め選手全員、本当に勝敗へのこだわりがなかった。信じられないかもしれませんがこれは本当のことです。
「勝ち負けにこだわらず、自分の力を出し切ろう」。このような言葉は意外とよく耳にする。しかし、実際にそれを体現できる者はごくわずかだ。常葉菊川は、監督以下選手全員がそれを実践したことで、今年の夏のみならず、毎年甲子園で上位を狙える強豪校へと成長をとげることができた。こういった野球観は、佐野監督自身の高校野球の監督としては異色ともいえる経歴が、少なからず関係している。
佐野 私自身、高校、大学、社会人、プロと野球を続けてきました。その経験から感じたのは、高校野球でしかできないことがある、ということです。先ほどから言っている「勝ち負け」に対する意識が全然違う。大学であれば学校の名誉につながる。社会人であれば名誉はもちろん、勝ち進むことで会社の宣伝にもなる。プロは当然勝つことでお金を得ることができる。高校野球は、そういった「何か」を背負わなくてもいい最後の野球です。だからこそ、変な気負いは必要ない。自分の力を思う存分に出し切れれば、それでいいじゃないか。何も背負ってないからこそ、そういう気持ちになれるんです。練習でも、選手を型にはめるようなことは絶対にしたくない。細かな技術などは、高校を卒業した後でも学べます。私が選手によく言うのは「もっと荒々しくプレーしてみろ」ということ。今の子はどうしても理論やセオリーを小さいころから教え込まれて、打撃や投球フォームが小さくまとまりがちです。もちろんそういった技術的な指導は大切ですが、この時期はまだ選手自身の持つ才能、力を目一杯引き出してやることが大切だと思います。日本の野球界を、プロ野球を頂点としたピラミッドだとしたら、私はそのすべての段階を経験している。だからこそ選手に伝えられることも少なからずあるはずなんです。
プロ野球経験者という異色の経歴。引退後、佐野監督が高校野球の指導者を志したのには、理由がある。
佐野 ドラゴンズにドラフトで指名してもらって入団し、プロ生活をスタートさせたのですが、正直一流選手と呼べるほどの実績は残せませんでした。ドラゴンズから戦力外通告を受けた時、私の中で2つの選択肢があった。ひとつは、他球団のテストを受けてプロとして生き残る道を探ること。もうひとつが、高校野球の指導者を目指すこと。そこで私が高校野球の指導者への道を選んだのは、少しでも長くグラウンドに立ち、野球に携わっていたかったからです。他球団のテストを受ければ、もしかしたら現役を続けることができたかもしれない。でもプロとしての選手寿命は短いもの。たとえ現役を続けることができたとしても、おそらく数年でまた引退することになったはずです。でも、高校野球の指導者であれば、70歳までグラウンドに立ち続けることができる。だから私は、より長くグラウンドに立ち続けることができる高校野球の指導者への道をえらんだのです。
少年野球BLOG より 「佐野心さん」
http://metoo.seesaa.net/article/111317746.html
常葉学園菊川高等学校
静岡県菊川市にある中高一貫の私立校。甲子園には、春夏合わせて6回出場し、優勝1回、準優勝1回。
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